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第九話 裸単騎
今日も私は『離れ小島』で勤務していた。暇なのか涼子も店にいる。店内は1卓だけ稼働していて常連のお客さん4人で仲良くやっている平和な時間だ。これを『1卓丸』と言う。私はとくにやることもないので涼子と2人で軽く店内清掃をしていた。すると
「最近青澤さんと仲良いねー」と涼子が待ち席を清掃してる私に話しかけてきた。あれ? 私はみんな平等に仲良くしてるつもりだが?
「そんなことないよ?」
「あー、たしかにマコトは誰とでも仲良いかー。でもね、青澤さんはそうでもないんだよ。マコトのことを絶対に特別視してると思う。なんだろな、お気に入り? みたいな」
「そっ、そうなの? なんか照れるなぁ……」
「とは言え、あの人は変わってるからね。恋愛対象とかじゃなくて実験動物みたいな感覚で興味もってるだけかもしれないけど」
「実験ってなんのよ?」
「10代で雀荘遅番従業員として活躍中の女なんて普通いないから、それの成長を見てる……とか?」
そう言われて私はたしかにそれはあるかも知れないなと思った。そもそも青澤さんに恋愛対象の目で見られてる感じは一切ない。面倒なことはお断りだからそれでいいんだけど、こんなに美人なのにそれはそれでちょっとおかしくない?? 私のことが好きーって男子は学校にはたくさんいたよ?? まあ、好みの男はその中にいなくて、いつも断ってたけど。
「ポン!」
卓からは間柴さんという80をこえるおじいちゃんの元気な発声が聞こえた。元気とは言え高齢者だ、この半荘かその
50.第伍話 雀荘遅番の醍醐味 今日は展開的に私が立ち番になって涼子が卓に着いてた。 涼子vsマタイ 私はその戦いがよく見えるよう二人の間に位置取りして二人の麻雀を観戦することにした。 なお、本日は特別ルールの日。というのも、私たち遅番はカー子に全てを任されており、地球の麻雀がどのようなルールなのかも学びたいということで、10日に一度はスノウドロップの正式ルールではない特殊ルールの日を設けるという話に決まったのだ。 ちなみに、マージに週や月や年という概念は存在せず、ただ日数だけがあるので週に一度休むとか、そういうのは地球の知識があるカー子とキュキュにしか通用しない考えで、基本的には10や5を丁度いい区切りとして考える文化が浸透していた。 そんなわけで今日は特殊ルール『白ポッチ(永遠制)』の日。 白ポッチ永遠制とは。 『白』に1枚だけ赤い丸を彫ってある牌が投入されるルールを『白ポッチ(しろぽっち)有りルール』と言います。この牌はリーチをかけた時だけ発動する条件付きジョーカーのようなもので、基本はリーチ一発で引いた時だけのオールマイティ。はっきり言ってあまり気にしなくていい。 しかし、永遠制となると違う。白ポッチ永遠制はリーチ後ならいつ引いてきてもその牌でアガリと認めるというルール。これだとけっこうプレイヤーもその牌の存在を気にしながら打たねばならない。今回はそれでやろう、ということ。「白ポッチ牌は私が作っときました」と言って涼子が見せたのは牌の中心にマジックで描いた赤いハートがあり、それが消えないよう上にテープを貼り付けたものだった。「本当は彫ってあるものなんだけど、大変だし、それだと一度作ったら直せないからね。これをリーチ後にツモってきたらアガリと認めます。今夜はそういうルールでやりましょう」 そう言って始まったゲーム
49.第四話 鬼と悪魔の攻防 初日が問題なく終了し、カー子たち早番と入れ替わりの朝が来た。「おはヨー」「おはよう。初日はどうだった?」「あ、カー子、キュキュ、おはよ」「もうそんな時間だったの? 全然気付かなかった」「これ、音の鳴る目覚まし時計。今買ってきたんで、持って帰ってくだサイ。初日の仕事は何か報告することとかありましたカ?」「目覚まし時計ありがとう! 報告はとくに無いけど、マコトとマタイさんの攻防が面白かったとだけは伝えときます」「ドユコト?」「うん、この二人本当にすごくて……。ノートに書いたから読んで欲しいんだけど、日本語って二人は読めるのかな?」「モチロン」「余裕だよ。神と仙人だからね」「そう、じゃあこれ見て」 そう言って涼子は二人にノートを手渡した。それにはこんな事が書いてあった。◆◇◆◇ 南3局マコトは40900点持ち二着目の南家。全員の持ち点はこう。東家 マタイさん 17300南家 マコト 40900西家 カルケヤさん 41100北家 ロッジさん 700 そこで親のマタイさんが混一色トイトイの仕掛けをしている。ドラは北。 親は鬼のように強い戦略家のマタイさんだ。この点差でこの仕掛けなら捨て牌全体図から読んでも6000オールクラスでまくりに来てるとは私にも想像はつく。 つまり当たり牌最有力候補はドラの北。混一色トイトイドラドラを強引にドラツモしてやるつもりなのだろうと予想。 そして飛び寸前の北家ロッジさんは1枚でもドラを持っていれば絶対に永遠と持ち続けてテンパイ寸前ま
48.第三話 ミズサキによる福思書「すごいですね。マタイさん」「何が?」「いや、麻雀うますぎますよ。マタイさんみたいな上手な人がいるなら私たち来る必要なかったのでは?」「……どの場面を見てそう思ったのか分からないけど、買いかぶりすぎだよ。それにおれは説明が苦手だし、恥ずかしながら、文字も……その、書けないんだ」「あ……そーいうことでしたか……」 文字が書けないは想定外だった。聞くとマタイさん世代のクリポン族は基本的にものを書く文化があまりなく、そのような学習を受けずに育つのが一般的だったのだとか(現在は違う)。 それはそれでいいとは思うが、他人に麻雀を教える上で筆記はなくてはならないものと言ってもいいのでカー子たちがマタイさんを頼れなかった理由が理解できた。「とは言え、やっぱり強い人がいて良かったね。ねっ、りょうちゃん」「そうね~。なにより強い人と麻雀する時が結局一番麻雀が面白いからね」「エッ!」「何よ?」「いや、りょうちゃんから『麻雀が面白い』なんて聞ける日が来るとは思わなかったなって」「そんなこと言ってないでしょ」「いや、言ったよ。間違いなく言ったって。賭けなきゃ面白くないみたいなこといつも言ってたくせに。強い人と打つのが結局一番楽しいんじゃん♪」「聞き間違いでしょ」「照れないでいいってー♡」「ハハハ! 二人は仲が良いんだな」「これからよろしくな、お二人さん」 とまあ、そんなこんなで私たちは賑やかに遅番初日を開始した。 うるさいとか言われるかと思ったけど私たちの可愛さゆえかお客さんみんな歓迎してくれて一緒に笑いながら初日を楽しんだ。でも、笑ってばかりもいられない。私は依頼されて来
47.第二話 ノータイムのマタイマタイ手牌 東1局8巡目 親番 ドラ②二二赤伍六六七七(西西西)(北北北) ここにツモ四萬と引いた時、あなたならどんな反応をするだろうか。ツモ切りか? それでもいいだろう。むしろそれはマジョリティな選択であると思われる。そもそもこの手はホンイツトイトイを目指して鳴き始めたのだ。四萬に用はない。 しかし、このマタイというクリポン族の男はノータイムで打七萬としたのである。(なるほど、3面待ちへの変化を見た1手というわけね。よく考えたらたしかにここは七切りが良いように思える)と後ろ見していた私も思ったし、それが正解ではあるのだが、特筆すべきはその七切りの理由である。というのも――「ツモ!」二二四赤伍六六七(西西西)(北北北) 伍ツモ「2600オール」 これである。つまり、伍萬でのツモアガリを想定した※点パネ期待。ここに着目してマタイは四萬を採用したのだ。 マタイ曰く、この卓のメンツは強い。オタ風のポンを2つ見せて親のホンイツ仕掛けにこれ以上鳴かせたり放銃したりするような相手ではない。この手はもう※ツモ専となったようなものだ。だとしたら伍ツモの時に打点が上がる選択をするのが正解だと思った。自力でトイトイをつけてさらにアガるなんてのは夢物語もいいとこだが、自力伍萬ツモならリアルにあり得る。と。そういうことらしい。 なるほど納得。相手をリスペクトしているからこその選択というわけだ。 また、数局後にこのような手牌になった時もすごかった。マタイ手牌 4巡目 ドラ北三六七八①②⑤⑤⑥12789
46.ここまでのあらすじ 不思議なカラス『カー子』に連れられて異世界に訪れたミズサキと涼子。彼女たちは異世界でも麻雀屋で働くことになる。今夜からミズサキたちの異世界遅番が始まる――【登場人物紹介】水崎真琴みずさきまこと 雀荘『こじま』の遅番メンバー。麻雀が好きなのと働きたくないのがリンクして雀荘遅番という職業につくことを選んだ現代に生きる遊び人。しかしこの度異世界へ転移。異世界雀荘『麻雀スノウドロップ』の遅番メンバーとなる。小島涼子こじまりょうこ 雀荘『こじま』の店主の娘。ミズサキとは中学高校の同級生。天才のミズサキとは真逆でアタマの固い涼子はミズサキに憧れる。見た目は真面目そうだけど性格はミズサキよりふざけてる。ミズサキと共に異世界へ転移。エル(カー子)える 異世界『マージ』の神様。雀荘経営をするにあたりスタッフが足らず、相応しいスタッフを求めて地球にカラスの姿で来ていた。ミズサキはそれに最も相応しい人物なのだとか。ただ、少し時代を間違えたらしかった。キュキュきゅきゅ 異世界『マージ』の神様の補佐をする仙人。13歳くらいの少年の姿をしているが、魔力エネルギーが減ってくるとリスになってしまう。とても物知りでエルをいつも助けてくれる。ネルビイねるびい 異世界『マージ』に住むシン族の少年。巷では天才と噂される。
45.第九話 異世界の発明品 結論から言うと、その目覚まし時計は鳴らなかった。 壊れてたわけじゃなく、鳴らない目覚まし時計だったのだ。 さすがは異世界の目覚まし時計である、起こし方が地球の常識と違っていた。 なんと、目覚まし時計は設定された時間になると眩しく光るのだ。光を浴びることで目覚めさせるという画期的な目覚まし時計なのである。 いや、全部が全部そのタイプではなく、音で起こすタイプの目覚ましもあるそうだが、これが最近ブームの目覚まし時計なんだということを後で知った。 いいアイデアではあると思う。大きな音で毎朝ビクッ! として飛び起きるのはなんとなく心臓に悪い気がするし。 しかし、思い出して欲しい。私たち遅番は昼間寝て夜起きるリズムだ。そして、アイマスクを購入した。ということは……「チョットー! 2人とも遅刻ダヨ。いつまで寝てんのヨ! とっくに遅番の出勤時間過ぎてるんだケド!」 そう、起きれるわけないよね。 カー子が起こしに来るまで私たちはぐっすりと寝ていた。アイマスクしてたから。はい、初日から大遅刻です。だって目覚まし時計が鳴らないだなんて思わないじゃん。 そんなわけでバタバタと支度する私と涼子。でもお風呂は入らせてよね。女の子なんだからさ。 すると、先に入った涼子が風呂場から大きな声を上げた。「ちょっとー! シャンプーないんだけど詰め替えはー?」「だってさカー子。詰め替えはどこにあるの」「ありマスありマス。台所の下に予備があるんで、いまお持ちしますネ」 そう言ってカー子が取り出したのは魚雷のような形をした小さく固めた粉洗剤的なものだった。「ハイ! これです。これをシャンプーボトルに入れて水を適量&helli